「business」の記事

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 依然、毎月国東市へ趣き、地元企業の情報発信力を高めてもらおうと、メディア制作に関するセミナーを開催している。別な取材も兼ねて、今のところ行く度に地元の企業の訪問を行っているのだが、これまで訪れた6社のうち2社が製造工場に廃校になった中学校の校舎を利用していた。けっこうな確率である。

  少子化による学校の休廃校は都市も地方も同じく起こっていることであり、この20年間で毎年400校前後が廃校になっている。一方千葉県の新浦安地区は、宅地開発に伴い、都市部でも珍しく10年ほど前に新設校が増加した。しかし開発が終わればまた少子化になる、という見込みから、校舎は始めから廃校後に図書館や美術館になるよう考えて設計されているという。実際の廃校舎再利用でも、都市部では東京の旧池尻中学校を再利用した世田谷ものづくり学校など、起業支援とか、ギャラリーとか、NPOとか、なんというかいかにも今風な施設に利用されているケースを多く目にするのだが、実際は国東のようにかつて学校だったこととは無関係に実用されている例のほうがはるかに多いようだ。

  今回取材したうちの1社である、ウェットスーツ素材で湯たんぽを開発し、全国的にも知名度を上げているヘルメット潜水()の伊賀社長によると、単に工場が手狭になったので、工場閉鎖などの情報に詳しいであろう県に物件に関する情報を依頼していたら、廃校になった校舎の利用を薦められたのだという。

  何十年かぶりに学校の建物に入ってみると、建物としての校舎の一番の特徴は、窓が大きく、自然光がたっぷり入ることだと気づいた。本来、工場の建物には窓がないことのほうが多いわけだが、旧校舎で作業している人たちを見ていると、自然光を浴び、季節の移り変わりを目にしながら仕事をすることは、作業のストレスを軽減するのにも役立っていそうな印象を受けた。なにより、かつて大勢いた子供たちの息づかいが、建物全体を優しく包んでいるような温かい感触を呼び起こすのだ。

  都会人は、かつて学校であったからにはアカデミックな施設にすべきである、というような、頭でっかちな考えを持ちがちだが、大田区や下町の町工場などをどんどん誘致すれば、ここでなら働いてみたい、という人間も増え、後継者を探すのにも役立ちそうな気がするのだが。

【撮影/工藤裕之】

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 古い話で恐縮だが、1999年から、編集長として「千葉ウォーカー」創刊に携わることとなり、神奈川出身で一度も千葉に住んだことのない僕は、いろいろ千葉を研究するようになった。

 千葉県を一言で言い表す特徴、というと困るが、県民性は島気質に尽きる。実際、明治まで江戸川と利根川に橋はなかった。古くから海を通じた都との行き来が中心だったことや、江戸時代においても、海運の要所(この時代まで、大量輸送手段と言えば船しかなかった)である江戸川、利根川に橋は作れなかったことなどからと思われるが、結果として、房総半島は巨大な島と同じ地域特性を持つことになった。

 島気質の特徴として、のんびりしていて、争いを好まず、地域への意識も薄いことなどが挙げられる。ディズニーリゾートや空港など、「東京」の名を関した巨大施設が東京以外にあるのはほとんど千葉県であることがいい例で、言い換えると他者との差別化に無頓着ということだ。

 今年から、大分県の国東市で地域の情報発信力強化のためのセミナー講師の依頼を受けて、すでに2月段階で2回赴いた。セミナーというより、参加者と力を合わせ、国東市民の手によって国東の魅力を発信する冊子を1年かけて研究し、制作していこう、という方向で進めている。1月のセミナーで、参加者に自分が思う国東じまんをなんでもいいから1つ以上挙げて、それにターゲットを設定してもらう、という課題を出して、2月に再訪した。

 提出された課題から見てもやはり予想通りだったのが、ここも見事な島気質の街である。隣の芝生を羨むことがなく、控えめで、でも住んでいる自分は十分幸せである、という、まさに愛すべき人々であるのだが、半島の東半分の海側に面する国東市に対し、同じ国東半島の西側に位置し、九州北部と交通の行き来が多い豊後高田市が昭和の町などのコンセプトで地域の差別化に邁進しているのとは対照的だ。

 今後どういう国東の魅力をピックアップしていくかはこれからの課題として、ちょっと唐突かもしれないが、僕自身は一度ここを訪ねてみて、非常にハワイに似ている、と感じた。それもオアフ島というよりはハワイ島やカウアイ島(は行ったことないが)のイメージだ。国東半島の中心に位置する両子山は標高が470mしかないため全体に地形はなだらかで、瀬戸内海に面した海も穏やかな上、日本の海岸線には珍しく何キロも砂浜が続く、といった見た目の特徴もそう感じさせる一因だ.

 ただ、それよりもここの島気質の人々の生活が、僕にとってハワイを感じさせる大きな要素になっている。街の建物はどれも古いがきちんと手入れが行き届いた佇まいで、ここに住んでいる人々が精神的に豊であることが強く印象づけられる。実際、UターンやIターンした人が多くセミナー参加者にいるのもそういったことと関係あるのかもしれない。

 これまた古すぎる話だが、かつて熱海は「東洋のナポリ」と標榜され、新婚旅行のメッカだった時代がある。なぜナポリなのかと言えば地形や建物の並びが似ていて、保養地である、という街の位置づけも似ていたからだろう。

 しかし交通手段が発達し、国民の所得も増えた結果、熱海は首都圏から見て手近なナポリの役目は負えなくなった。なにより、(おそらく)熱海の人々の暮らしはイタリア人と似ていない。「東洋のナポリ」が廃れたのは、言い回しがダサかっただけではなく、人々の暮らしが極端にイタリアっぽかったりしたら、案外今でも人気の保養地だったかもしれないのだ。

 もとより、街を作るのは人でしかない。国東においては、住んでいて幸せだ、と感じている人々もインフラと考え、街の魅力に転化する方法はないものか、これから探っていきたい。

(冒頭写真は、国東市南部にある黒津崎海岸)

はじめまして。

2009.09.08 | Theme :
株式会社アッシュ&カンパニー(H&Co.)は、メディア制作、PRプロデュース、商業開発コンサルティングなどを主業務とする会社です。

「アッシュ」はHのフランス語読みですが、英語では「灰」を意味し、再生のシンボルとしての側面もあります。「灰」から、仲間(カンパニー)と共に新しいものを生み出す会社でありたい、という意味を込めています。

Comments

  • 重信裕之: ゆかりさん、こんな弱小ホームページを発見していただいてありが » 続きを読む
  • yukari: 今頃のコメントで失礼します。 私も少し、家の間取りを書いたり » 続きを読む
  • ゆかり: 9月17日の記事にコメント欄がなかったので、こちらにコメント » 続きを読む
  • 重信裕之: ネコ好きさん、コメントありがとうございます。 池袋でのロケハ » 続きを読む
  • ネコ好き: ネコ屋敷が気になります。何匹入れるのでしょうか? » 続きを読む