廃校になった校舎の再利用が産む、意外な効果?

2013.05.01 | Theme :

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 依然、毎月国東市へ趣き、地元企業の情報発信力を高めてもらおうと、メディア制作に関するセミナーを開催している。別な取材も兼ねて、今のところ行く度に地元の企業の訪問を行っているのだが、これまで訪れた6社のうち2社が製造工場に廃校になった中学校の校舎を利用していた。けっこうな確率である。

  少子化による学校の休廃校は都市も地方も同じく起こっていることであり、この20年間で毎年400校前後が廃校になっている。一方千葉県の新浦安地区は、宅地開発に伴い、都市部でも珍しく10年ほど前に新設校が増加した。しかし開発が終わればまた少子化になる、という見込みから、校舎は始めから廃校後に図書館や美術館になるよう考えて設計されているという。実際の廃校舎再利用でも、都市部では東京の旧池尻中学校を再利用した世田谷ものづくり学校など、起業支援とか、ギャラリーとか、NPOとか、なんというかいかにも今風な施設に利用されているケースを多く目にするのだが、実際は国東のようにかつて学校だったこととは無関係に実用されている例のほうがはるかに多いようだ。

  今回取材したうちの1社である、ウェットスーツ素材で湯たんぽを開発し、全国的にも知名度を上げているヘルメット潜水()の伊賀社長によると、単に工場が手狭になったので、工場閉鎖などの情報に詳しいであろう県に物件に関する情報を依頼していたら、廃校になった校舎の利用を薦められたのだという。

  何十年かぶりに学校の建物に入ってみると、建物としての校舎の一番の特徴は、窓が大きく、自然光がたっぷり入ることだと気づいた。本来、工場の建物には窓がないことのほうが多いわけだが、旧校舎で作業している人たちを見ていると、自然光を浴び、季節の移り変わりを目にしながら仕事をすることは、作業のストレスを軽減するのにも役立っていそうな印象を受けた。なにより、かつて大勢いた子供たちの息づかいが、建物全体を優しく包んでいるような温かい感触を呼び起こすのだ。

  都会人は、かつて学校であったからにはアカデミックな施設にすべきである、というような、頭でっかちな考えを持ちがちだが、大田区や下町の町工場などをどんどん誘致すれば、ここでなら働いてみたい、という人間も増え、後継者を探すのにも役立ちそうな気がするのだが。

【撮影/工藤裕之】

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